競馬の払戻金と税金のおはなし

中央競馬の一年を締めくくる有馬記念は、昨日(2017年12月24日)中山競馬場で行われ、武豊が騎乗する1番人気のキタノブラックが優勝して、ラストランを飾りました。

馬券を的中させて払戻金を受け取った場合の税金は?

ところで、馬券を的中させて払戻金を受け取った場合の税金は、どうなるのでしょうか?
多くの競馬ファンが趣味や娯楽で買う馬券の場合は、的中して儲けたお金は「一時所得」になります。
しかし、一時所得には年間で50万円の特別控除がありますから、儲けが50万円を超えていなければ、確定申告の必要はありません。

50万円を超える儲けがあれば、確定申告して所得税や住民税を納める義務があります。

具体的には、的中して払戻を受けた金額から必要経費を差し引いた金額が儲け(所得)です。

一時所得は、その収入を得るために直接支払った金額だけが必要経費になります。

例えば、あるレースで5万円払って、1万円ずつ5点買いし、そのうちの1点が的中して100万円の払戻金を受け取ったとします。
この100万円を得るために直接支払ったお金は、その的中馬券を買った1万円ですから、必要経費は1万円のみです。
同じレースで外れた馬券代4万円はもとより、同じ日の別レースで買った馬券代金も、必要経費には含まれません。これを数式で表すと、次のように計算されます。
(100万円ー1万円)-50万円 = 45万円
45万円 × 2分の1 = 24万5000円

こうして計算した一時所得24万5000円と、他の所得とを合算してその年の所得税や住民税が計算されます。

競馬の払戻金と税金の関係で、問題になるのは必要経費です。馬券の払戻金と必要経費をめぐり最高裁まで争われた最近のケースが3件あります。

ケース1 競馬の払戻金は一時所得・必要経費

元会社員のAさんは、馬券自動購入ソフトを使って、3年間に28億7000万円の馬券を買い、当たり馬券で30億1000万円の払戻を受けて、差し引き1億4000万円の利益を得たことが発覚しました。

Aさんは、国税当局の査察を経て検察官から脱税(所得税法違反)事件で起訴されました。刑事裁判が始まり、検察官は、「払戻金の収入は一時所得に当たるので、必要経費に算入できるのは的中した馬券の購入代金のみであるから、Aさんの課税対象金額は14億5000万円である。」と主張しました。

これに対し、Aさんは、「娯楽ではなく、営利活動として反復継続的に競馬を行っていたので、払戻金は雑所得に当たるから、外れ馬券も必要経費に含まれる。」と反論し、検察官の主張と真っ向から対立しました。

一審の大阪地裁は、「Aさんは娯楽ではなく資産運用として競馬を行っていたので、その払戻金は雑所得に当たる。外れ馬券の代金も必要経費に含まれる。」と判断し、起訴されていた脱税額5億7000万円を大幅に減額して、脱税額を5200万円と認定しました。二審の大阪高裁でも、この判断が維持されました。

検察官からの上告を受けた最高裁は、平成27年3月10日、「Aさんの得た払戻金は雑所得に当たり、外れ馬券を含む一連の馬券購入が一体の経済活動であり、全ての購入費用が払戻金収入に対応している。」という判断を示し、外れ馬券の購入費を必要経費と認めました。

ケース2 外れ馬券が必要経費に認められた

外れ馬券が必要経費になるかどうかをめぐって、追徴課税処分の取消しが最高裁まで争われた行政事件のケースを見てみましょう。

Bさんは、馬券自動購入ソフトこそ使っていないが、回収率が100%を超える馬券を選び出す独自のノウハウに基づいて、平成17年から平成22年にかけてインターネットで約72億7000万円の馬券を購入し、約5億7000万円の利益を上げました。

Bさんは、この払戻金を雑所得として、外れ馬券の購入金も必要経費に算入する計算で確定申告をしました。これに対し税務署は、一時所得であると認定し、外れ馬券の経費算入を認めず、1億9000万円の追徴課税処分を決定しました。

この追徴課税処分の取り消しを求めて、Bさんが訴えを起こしたのが今回の事件です。一審の東京地裁は「Bさんは、一般的な競馬ファンの購入方法と大差がないので一時所得に当たる。」と判断して、税務当局の追徴課税処分は適法であると認めました。

Bさんの控訴を受けた二審の東京高裁は、「Bさんの収入は雑所得に当たるから、外れ馬券の購入費も必要経費に含めることができる。」と判断して、税務当局の課税処分を取り消しました。

国が上告し、最高裁第2小法廷は、平成29年12月15日、二審東京高裁の判断を維持し、国の上告を棄却しました。

ケース3 外れ馬券が必要経費認められなかった

行政事件として最高裁まで行った事件です。この事件では、これまで見てきたAさんやBさんとは逆に、競馬の払戻金が一時所得に当たり、外れ馬券は必要経費に含めることができないと判断されています。その内容を見てみましょう。

Cさんは、インターネットを利用して平成20年から平成22年までの3年間に約2億5000万円の馬券を購入しました。しかし毎年赤字が続き、3年間で約7000万円の損をしました。そこでCさんは、雑所得による損失があったとして、還付金を申告しました。

これに対し、税務当局は、Cさんの収入は一時所得に当たるとして、外れ馬券の経費算入を認めず、還付金を申告額より約550万円減額する更正処分をしました。

Cさんは、この更正処分を不服として取消しを求める訴えを起こしました。裁判でCさんは、「馬主としての情報を駆使し、営利目的で大量に馬券を購入していた。」と主張しましたが、一審の東京地裁は、「一般の競馬愛好家と実質的に変わらない。」と判断し、Cさんの訴えを退け(棄却し)ました。
二審の東京高裁では、一審の地裁判断が支持されたため、Cさんが上告していました。

そして、平成29年12月20日、最高裁第2小法廷がCさんの上告を退けたことによりCさんの場合は、外れ馬は経費に含まれないことが確定しました。

このように、外れ馬券の経費算入について、最高裁判所の判断が、認めるケース(前項のAさんBさん)と認めないケース(Cさん)に分かれています。しかし、裁判所の判断は、それぞれの事例に沿って示されるので、矛盾していると評価するのは間違いです。
判断の分かれ目は、馬券の買い方や規模などを総合的にみて、営利目的で反復継続的に競馬を行っているかどうかにあるものと思われます。

高橋寛

高橋寛

弁護士 高橋 寛(たかはしゆたか)
元検事・元公証人
【主に従事してきた分野】
刑事事件、税務訴訟、交通事故、離婚、相続、遺言、マンションの漏水事故、借地・借家などの事件に取り組んできました。
【著書(共著)】
空き家・空き地をめぐる法律実務(新日本法規出版)
【所属】
愛知県弁護士会所属、同弁護士会「子どもの権利委員会」所属、同弁護士会「人権擁護委員会」所属