認知症患者が電車にはねられ死亡事故、鉄道会社への賠償責任は?

この記事を書いたのは:旭合同法律事務所(名古屋)

認知症の男性患者が徘徊中に電車にはねられ死亡した事故をめぐり、家族が鉄道会社への賠償責任を負うかどうかが争われた訴訟で、最高裁は、家族に責任がないとして鉄道会社の賠償請求を棄却した、という。

世論はこの最高裁判決を好意的に見ているようですが、しかし、最高裁は次のようにも述べています。

「認知症患者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けて監督を現に行い監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,賠償責任を負う」

つまり、認知症患者が他者へ損害を加えることを防止することまでも含めて介護を引き受けた人一倍の親孝行者については、賠償責任を負う可能性がある、と言うことです。介護を頑張れば頑張るほど、責任も増す、ということになります。

この最高裁判決を読んで、次のことを思い出しました。
ある介護施設長さんは言っていました。
入居者のリハビリを本当に頑張って要介護度が改善すると、国からいただけるお金が減って経営がきつくなる、他方、リハビリをせずに入居者をほったらかしにして入居者の要介護度が進行すれば、たくさん国からお金をいただけて経営が良くなる。
つまり、介護施設は、入居者の能力回復をするように努力しない方が、経営上は助かるのです、寝たきりのまま放置するのが一番金になる、おかしくないか、と。

親への介護、介護施設による介護、頑張る人が報われない世の中になっていないだろうか。法律に不備はないだろうか。
そんなことを改めて考えさせられた最高裁判決でした。

@最高裁平成28年3月1日判決


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